サラ文・展望台(2008年10月)

あふれる好奇心―
 古臭くて無粋な響き。けれどそれを持っていた学生時代を懐かしく羨ましく思い出しもする言葉だ。
 今どきの若者は、なにかに駆り立てられて旅に出る、なんていうことはないのだという。表情薄く「出会い?ふれあい?かったるい」「旅行より家でゲーム」と敬遠。リュックひとつで未知の世界へ飛び出し冒険に挑んだ世代からするとうら寂しさを拭えない。
 先月、3年来おつきあいいただいている大学の海外研修ゼミの出発を成田に見送りに行った。毎年学生たちはアジアの数都市を3週間かけて研修したあと個人旅行のため諸国周遊に散っていく。
 前もって予定をすべて決めていく子、初めの1泊だけ宿を確保しあとは現地調達に挑戦する子、何とかなるサと緊急連絡用の携帯ひとつで出かける子。旅のしかたはさまざまだが、みな危機管理の意識付けだけは準備を欠かさない。
 空港に集まった彼らは、最長1ヶ月の長旅組でさえ持ち物はバックパックに収めて身軽だ。
 「今年も気をつけていってまいります。伊藤さん、お世話ありがとうございます!」元気に手を振って出国してゆく彼らの輝く瞳と無邪気な後ろ姿をみるにつけ、子を旅に出す母の心境(?)になり熱いものがこみ上げてしまうのは…私の歳のせいではなく、若者に希薄になっているはずの『あふれる好奇心』を鮮明に体現している彼らのまぶしさと相対する自分への気恥ずかしさで心が揺れるからなのだろう。

 世界は飛び込む者に懐を開く。今年彼らはどれだけの優しさをもらって帰ってくるだろうか。
 自分もまた、いつまでも好奇心を忘れないようにと思いを新たにする一年に一度の大切なときだ。

サラ文幹事:伊藤聡子