新宿御苑の新宿門の脇に、インフォメーションセンターという建物があります。そこに展示コーナーがあって、自然を対象にした写真や絵画サークルの展示会がよく開かれています。先日、ボタニカル・アートといって、植物を図鑑的に描く作品展がありました。一点ずつ鑑賞していて、ある絵に目がとまりました。それは、「もじずり」別名「ねじばな」です。小さな蘭の一種で、可憐な花です。その絵は、楚々とした花の様子を丁寧に描いていてとても魅力的でした。
「ねじばな」は、94歳になる母が大好きな花なのです。私は無茶なことを考えました。展示の受付の方に、母に贈りたいのでこの絵を譲って貰えないか、と聞いてしまいました。その方も困惑されて、「とにかく作者がいないので連絡先だけでも書き残していってください、話してみますので」とのことでした。そこで、メモを渡しておいたのですがなんの連絡もなく、もう忘れていました。すると先日、見知らぬ方から手紙が届き、「高齢のお母さまに贈られる」ということなら譲ります、との丁寧な内容でした。私は喜んで返信したところ、すぐにその絵が届いたのです。さっそく額を買いにいき、母に届けました。
母は、天にも昇らんかの喜びようでした。(昇ってもらっては困りますが)「わたし、この花だーいすきなの。ほんとにかわいいの。芝生のあちこちに生えてるのを集めてそこに植えたら、ちいさい芽が出てきたのよ。大、大、だーい好き、あー嬉しい。長生きしてたら、こんなに幸せがやってきた」と童女のようでした。
94歳にもなると、もう欲しいものがありません。母の日や敬老の日もあげるものがありません。もう、心の振幅もそう大きく振れることもありませんでした。ですから、こんなに喜ぶ母をみるのも久しぶりでした。「もう死んでいますから」と選挙にもいかない母ですが、天に昇るまえに、予行演習させてあげられてつくづくよかったと思いました。
絵の作者Oさんと素敵な趣味に本当に感謝しています。
栗原修二
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